父の物忘れが増えた段階で家族信託を組成し、約3か月で自宅タワーマンションを売却。老人ホーム転居から財産管理、遺言までを整えた事例です。
ご相談内容
3つのキーワード
売却が止まる
施設選び
娘の負担をかけたくない
父の物忘れが増え、認知症の兆しが見られるようになりました。現在のタワーマンションを売却して夫婦で老人ホームへ移りたいものの、売却中に判断能力が低下した場合の対応、入居後の生活費、財産管理、娘夫婦への負担が心配な状況でした。
「自宅を売却して老人ホームへ移りたい。ただ、認知症になったときの財産管理や、娘夫婦に負担をかけることが心配でした」
解決策
売却・転居・財産管理を3段階で整備
- 父を委託者、娘を受託者とする家族信託を組成
- タワーマンションを約3か月で売却し、転居を実行
- 任意後見・身元保証・死後事務・遺言まで整備
売却継続の仕組み
夫婦に合う住環境
娘の負担を分散
担当者コメント
父は、上場会社の社長まで上り詰められた方で、自身の体力の低下は自覚されているものの、プライドは維持されており、建設的な話ができる方でした。一方で、自分の判断を曲げない方でもあり、家族信託の導入の際には母と娘と事前に打ち合わせを重ねて慎重に対応しました。
父の想いとしては、母が困らないようにしたいというのが一番強く、生活費に関する心配が最優先でしたので、老後資金のシミュレーションから財産管理の仕組みまで整えることにしました。それでも、娘とはいえ全ての財産を他人に預けるのは心許ないとのことで、自分で管理する財産と信託財産を分けておき、ご自身で管理できる状況までは、ご自身の管理財産から生活費等を拠出していただき、手続きが煩雑なものについては、娘の管理口座から拠出するなど、臨機応変に対応することができました。
信託の組成から8年後に父が亡くなりました。母はお元気で遺産分割も問題なくできる状況でしたが、遺言があることによって相続手続きはスムーズに実施することができました。信託財産は受益者が父から母に移行し、現在も信託財産と自己管理の財産の二重構造で財産管理を行っています。
家族間でも「過度に負担をかけたくない」という気持ちは誰でも持っていると思います。それが形にできた事例だと思います。
相続対策というと亡くなったときの対策というイメージがありますが、生前の認知症対策や生活支援や財産管理なども、実際問題としては必要です。

ご相談者プロフィール
今回ご相談をいただいたのは、父の物忘れが増え、将来の財産管理と住み替えを検討していたU.T様・70代男性のご家族です。

| 相談者 | 父78歳・母71歳・ 娘50歳(既婚・別居) |
|---|---|
| きっかけ | 父の物忘れと老人ホームへの住み替え検討 |
| 資産総額 | 約6億円 |
| 年間収支 | 自宅売却後の老後資金をシミュレーション |
父母は都内のタワーマンションで暮らしていましたが、父には介護が必要となり、母も将来の負担を考えて夫婦で老人ホームへ移ることを希望していました。
| 財産の種類 | 内容 | 評価額(概算) |
|---|---|---|
| 現預金 | ― | 約3億円 |
| 有価証券 | — | 約1億円 |
| 保険 | — | 約1,000万円 |
| 自宅タワーマンション | — | 約1.5億円 |
| 区分マンション | — | 約5,000万円 |
BEFORE:3つの構造的問題

問題 01
売却が止まる
自宅の売却中に父の判断能力が低下すると、売買契約や決済が止まる可能性がありました。
問題 02
夫婦で住めない
父は介護が必要、母は自立していたため、夫婦が同じ生活環境で暮らせる施設選びが難しい状態でした。
問題 03
娘の負担が大きい
母は事務作業が苦手で、娘に多分な負担がかかることが心配でした。
ACTION:実行の流れ
フェーズ1 ── 認知症対策と売却準備
自宅売却の手間を娘が全て受け持つ 認知症のリスクもさることながら、事務手続きや最終判断にも労力を使うため、売却手続きは家族信託を組成して娘が全て行うようにしました。
自宅売却で得たお金をそのまま信託口座で管理することによって、本人の財産と信託財産を分けて管理することにしました。
「できることまで全部取り上げるのではなく、自分で管理する財産を残せたことで納得できました」
プレミアム階の価値を踏まえて一般市場で売却し、約3か月で購入時と同等程度の金額で成約しました。契約手続きは娘が受託者として行いました。
家族信託は、契約内容や信託する財産の範囲によって、税務や売却時の取り扱いが変わります。下記の記事で詳しく解説しています。


フェーズ2 ── 老人ホーム転居と生活支援
父は介護棟、母は自立棟を利用できる併設型の老人ホームを選び、日中は一緒に過ごし、就寝時は別室とする生活を設計しました。
自宅売却と老人ホーム契約を連動
自宅の引渡し時期と老人ホームの契約・引越しを調整し、住まいが途切れないように転居を進めました。
「父は介護棟、母は自立棟でも、日中は一緒に過ごせる生活ができました」
信託財産以外の管理や緊急時対応を補うため、任意後見、身元保証、死後事務委任を整え、生活が落ち着いた後に父の遺言書も作成しました。

判断の分岐:なぜこの選択をしたか
このケースでは、複数の選択肢が検討されました。それぞれを選ばなかった理由が重要です。
分岐① 自宅をどう売却するか
| 方法 | メリット | デメリット | 判断 |
|---|---|---|---|
| 業者買取で早期売却 | 短期間で現金化できる | プレミアム階の価値が価格へ反映されにくい | 今回は採用せず |
| 家族信託後に一般市場で売却 | 認知症リスクに備えながら高値売却を目指せる | 信託契約の準備が必要 | 採用 ◎ |
採用理由:父の判断能力が低下しても娘が売却を継続できる体制を先に整え、プレミアム階の価値を市場で評価してもらうため、家族信託後の一般売却を採用しました。
分岐② 財産を誰が管理するか
| 方法 | メリット | デメリット | 判断 |
|---|---|---|---|
| 父がすべて管理 | 本人の自由度を維持できる | 判断能力が低下すると手続きが止まる | 採用せず |
| 娘へすべて信託 | 手続きは進めやすい | 父が財産を取られるように感じる可能性 | 採用せず |
| 自己管理財産と信託財産を分ける | 父の意思を尊重しつつ、難しい手続きは娘が対応できる | 父が認知症になると、口座を動かせなくなる | 採用 ◎ |
BF式:全体最適の視点から見たこのケース
BFコンサルティングが大切にしているのは「全体最適」という考え方です。自宅売却、老人ホーム、認知症対策、財産管理、相続を別々に進めると、住まいや資金管理に空白が生じる可能性があります。
今回は、父母の生活、売却資金、娘の負担、父亡き後の母の財産管理までを一つの設計図にまとめ、4つの判断軸で体制を整えました。
- 認知症が進む前に、売却と財産管理の権限を整える
- 本人ができることと、娘・外部支援が担うことを分ける
- 父亡き後の母の生活まで見据え、第2受益者と遺言を設計する
AFTER:夫婦の生活と財産管理が止まらない状態へ

売却
タワマンを約3か月で売却
購入時と同等程度の金額で売却し、生活資金へ転換
住環境
介護棟+自立棟へ転居
日中は夫婦で過ごし、就寝時は別室の生活を実現
財産管理
娘が信託財産を管理
父の意思を残しつつ、煩雑な手続きを娘が対応
将来準備
任意後見・身元保証・遺言を整備
受益者連続型家族信託と任意後見・身元保証・遺言を整備
再現条件:このケースが有効な条件
この事例で行った「分筆→転居実行→賃貸併用住宅建築」という流れは、すべての不動産相続に当てはまるわけではありません。以下の条件が重なるケースで、特に有効な選択肢になります。
- 本人に物忘れや認知症の兆しがあり、不動産売却を予定している
- 自宅売却後に老人ホームなどへの住み替えを検討している
- 本人の財産管理能力を尊重しながら、一部を家族に任せたい
- 本人亡き後の配偶者の生活費と相続手続きまで準備したい
家族信託は、本人の判断能力、財産内容、家族関係、売却予定によって設計が異なります。
自宅売却だけ、家族信託だけ、老人ホーム探しだけを別々に進めると、生活や財産管理に空白が生まれることがあります。BFコンサルティングでは、住まい・財産・家族負担・相続を一つの設計図として捉える全体最適の視点から、必要な仕組みと実行順序を整理します。



