近年、所有者不明土地の増加が社会問題化しています。所在地がわからず管理が行き届かない土地や、相続が進まず所有者が特定できないケースが年々増えており、その対策が急務となっています。
このような状況を背景に、不動産登記法や民法が令和3年に改正され、所有者不明土地を減らすための制度がいくつも設けられています。
これにより、土地の放置を防ぎ、地域の開発や不動産の適正な活用が期待されていますが、具体的にどのような措置が講じられているのでしょうか。
所有者不明の場合の管理人の指定や、国庫への帰属がどのように進められるのか、そして市町村がどのように関与するのか。この記事では、新たな制度の概要について解説し、その法改正がどのように地域と個人の財産を守るのか探っていきます。
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所有者不明土地とは?
所有者不明土地とは下記のことを指します。
- 不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地
- 所有者が判明しても、その所在が不明で連絡が付かない土地
このような土地が日本全国で増加し、その面積を合わせると九州地方の面積より広いと言われているほどです。
地方公共団体が実施した地籍調査事業では、所有者不明土地の割合は26%にも及んでいます。(令和5年度国土交通省調べ)
その原因としては、主に2つがあげられます。
- 土地の相続の際に登記の名義変更が行われないこと 62%
- 所有者が転居したときに住所変更の登記が行われないこと 32%
所有者が不明の状態が続いてしまうと・・相続人が増えていき特定が困難になることや建物の老朽化、森林の荒廃など土地の処分ができなくなります。
所有者不明土地となる背景
それではなぜ相続登記が行わない人が多かったのでしょうか?
一番の理由は「相続登記の申請は義務ではなく、費用や時間もかかるため」です。その他としては、都市部への人口移動が進んだことで実家の土地の所有意識や土地を活用する意識が低下したことが考えられます。
相続登記を行うことで登録免許税が発生しますし、士業に依頼すると報酬も発生するので申請しない選択をする相続人が多くなっていました。
所有者不明土地による問題点は?
所有者不明の土地は、日本における深刻な社会問題の一つです。相続や登記が適切に行われず、所有者の所在が分からなくなることで、土地の管理や活用が難しくなります。
これにより、地域の環境や防災対策に大きな影響を及ぼすことがあります。特に、高齢化社会では相続が増え、こうした問題がますます深刻化しています。
土地が活用できないことや、管理が行き届かないことによる具体的な問題点について詳しく解説します。
土地が活用できない
所有者不明の状態が続くと、土地の売買ができません。
公共事業で活用したいと思っても、所有者不明のままだと土地を購入できません。購入には所有者を探す必要がありますが、探索には多大な時間と費用が必要となります。(戸籍・住民票の収集、現地訪問等の負担増)
共有者が多数の場合や一部所在不明の場合、土地の管理・利用のために必要な合意形成が困難なケースもあります。
土地が管理されない
所有者不明の土地は管理されず放置されてしまうことが多いです。その土地だけではなく、隣接する土地など周辺への悪影響も発生し、近隣住民に不安を与えることも懸念されます。
また、土砂崩れなどの防災対策のための工事が必要な場合も、工事を進めることができず、危険な状態が続きます。
このような管理不全が続くと、周辺住民の生活にも不安をもたらし、地域の魅力を低下させることになります。管理を円滑にするための法律や制度の改正を通じ、問題の解消が求められています。
所有者不明土地を解消するために
所有者不明土地を解消するために、2021年4月21日、「民法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第24号)及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和3年法律第25号)が成立しました(2021年4月28日公布)。
この法律では、所有者不明を事前に予防したり、所有者不明が発生している土地を利用できるようにするために、下記3つの見直しと制度の創設がされました。
- 登記がされるようにするための不動産登記制度の見直し
- 土地を手放すための制度(相続土地国庫帰属制度)の創設
- 土地・建物等の利用に関する民法の規律の見直し
施工日
①登記がされるようにするための不動産登記制度の見直し | 令和5年(2023年)4月1日 |
---|---|
相続登記義務化関係の改正 | 令和6年(2024年)4月1日 |
住民変更登記義務化関係の改正 | 令和8年(2026年)4月1日 一部は令和8年2月2日 |
②相続土地国庫帰属法 | 令和5年(2023年)4月27日 |
③土地・建物等の利用に関する民法の規律の見直し | 令和5年(2023年)4月1日 |
不動産登記制度は何が見直されたか?
まずは1つ目の「登記がされるようにするための不動産登記制度の見直し」を詳しく解説していきます。
この見直しによって、下記が大きく見直されました。
相続登記や住所変更登記の申請は任意であったが、義務化されることとなった。
相続登記義務化については、令和6年4月1日から義務化されることになりました。また住所変更登記義務化については、令和8年4月1日から義務化されることになりました。
さらに、現在所有者不明のまま放置されている土地も義務化の対象になりますので注意が必要です。
具体的にどういった法制度が見直し・創設されたか一覧表で見ていきましょう。
- 相続登記の申請の義務化
- 相続人申告登記制度の創設
- 住所等の変更登記の申請の義務化
- 所有者不動産記録証明制度の創設
- 所有権の登記名義人の住所等が変わった際に不動産登記へ反映される仕組みの創設
- DV被害者等を保護するため登記事項証明書等に現住所に代わる事項を記載する特例
相続登記の申請の義務化
相続等で不動産を取得した相続人は、3年以内に相続登記の申請を行う必要があります。
基準日については、「所有権を取得したことを知った日から3年以内」または遺産分割を行なった場合は、「遺産分割が成立した日から3年以内」となります。
義務化ですので、罰則もあります。正当な理由がないのに相続登記をしない場合、10万円以下の過料が科せられる可能性がありますので注意ください。
正当な理由とは、具体的に5つ定められています。
(1) 相続登記の義務に係る相続について、相続人が極めて多数に上り、かつ、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合
(2) 相続登記の義務に係る相続について、遺言の有効性や遺産の範囲等が相続人等の間で争われているために相続不動産の帰属主体が明らかにならない場合
(3) 相続登記の義務を負う者自身に重病その他これに準ずる事情がある場合
(4) 相続登記の義務を負う者が配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成13年法律第31号)第1条第2項に規定する被害者その他これに準ずる者であり、その生命・心身に危害が及ぶおそれがある状態にあって避難を余儀なくされている場合
(5) 相続登記の義務を負う者が経済的に困窮しているために、登記の申請を行うために要する費用を負担する能力がない場合
また申請に関して、総務省がフローチャートを作成していますので参考にしてください。
相続人申告登記制度の創設
相続登記には期間が定められていますが、遺産分割の話がまとまっていない場合、すべての相続人がその土地を共有していることなります。
その状態で相続登記をしようとすると、全ての相続人を確認するための資料や手続きが必要となり、相続人の負担となります。
そのため、相続人それぞれが相続人であることを申し出ることで、相続登記の申請義務を果たすことができる制度が創設されました。(一人が申請することで義務を履行したとみなされる制度ではありません。)
しかし、今後相続した不動産を売却したり、抵当権を設定する場合には相続登記が必要になるので注意ください。
あくまでの申請期間が迫っている時の応急処置としてなど効果が限定的である制度といえます。
住所等の変更登記の申請の義務化
不動産の所有者は、氏名や住所を変更した日から2年以内に住所等の変更登記の申請を行う必要があります。
義務化ですので、正当な理由がないのに申請をしない場合、5万円以下の過料が科せられる可能性がありますので注意ください。
土地を手放すための制度(相続土地国庫帰属制度)とは?
2021年(令和3年)4月に成立した相続土地国庫帰属法(正式名称:相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律)に基づき、2023年(令和5年)4月27日からスタートしました。
相続土地国庫帰属制度とは、相続等で土地を取得した者が、法務大臣の承認を得て、その土地を国に引き取ってもらう制度のことです。
土地は所有しているだけで、管理費用がかかります。
利用予定のない人にとって、土地の所有は悩みの種です。
土地を相続したけれども、いらないので手放したいという人は、ますます増えています。
いらない土地を相続した人の要望をうけて、土地を手放しやすいようにしたのが、相続土地国庫帰属制度です。
相続土地国庫帰属制度については、下記の記事で詳しく解説しております。
土地・建物等の利用に関する民法の規律の見直し
土地・建物等の利用を円滑化するために下記の制度の見直しや創設がされました。
- 土地・建物に特化した財産管理制度の創設
- 共有制度の見直し
- 遺産分割に関する新たなルールの導入
- 相隣関係の見直し
土地・建物に特化した財産管理制度の創設
財産管理制度とは、所有者不明や管理不全の土地・建物に対して地方裁判所に管理人を選任してもらう制度です。
今まで所有者不明の土地・建物は、公共事業の障害や民間の取引を阻害、近隣住民に不安を与える問題があり、近隣住民が役所に相談しても、専門の財産管理制度がなかったために応急措置で対応していました。
そこで土地・建物に特化した財産管理制度の創設をすることで管理を効率的に行えるようになりました。
共有制度の見直し
今までは共有物の増改築など行う際に、共有者全員の同意が必要でした。
共有者の中には、所在が分からない共有者もいたため、不動産の利用について意思決定ができない問題がありました。
そこで形状または効用の著しい変化を伴わない変更(軽微変更)については、共有者の過半数で決定できるようになりました。
軽微変更とは、下記のものがあげられます。
- 砂利道のアスファルト舗装
- 建物の外壁・屋上防水等の大規模修繕工事
所在が分からない共有者がいるときは、他の共有者が地方裁判所に申し立て、管理行為や変更行為が可能になります。
また所在が不明な共有者の持分を取得したり、その持分を含めて第三者に譲渡することも可能となります。
遺産分割に関する新たなルールの導入
相続が発生してから遺産分割されないまま放置されると、さらに多くの相続人が土地を共有することになり、遺産の管理・処分が難しくなります。
さらに法定相続分を基礎ルールとしつつ、生前贈与や個人の事情を考慮して相続分を算定しますが、長期間放置されると証拠とする書類がなくなってしまい、遺産分割が複雑化する問題がありました。
そこで、被相続人の死亡から10年経過した後に遺産分割をする場合は、原則として具体的相続分は採用せず、法定相続分で行うルールが導入されました。
相隣関係の見直し
隣地の所有者やその所在が分からない場合は、隣地の利用許可を得ることができず、土地を円滑に活用できません。
そこで、隣地を円滑・適切に使用できるように相隣関係に関するルールの見直しが行われました。
- 隣地使用権のルールの見直し
- ライフラインの設備の設置・使用権のルールの整備
- 越境した竹木の枝の切取りのルールの見直し
まとめ
近年増加してきた所有者が不明な土地は、地域社会や不動産市場にとって大きな問題となっています。
この所有者不明が増え続けている背景には、申請の手間や時間がかかること、都市部への人口移動が進んだことで実家の土地の所有意識や土地を活用する意識が低下したことが影響しています。
このような状況を解消するために、国は2024年に向けて法改正や制度整備を行いました。この改正により、土地の管理や手続きが円滑に進むことが期待されています。
具体的には、土地の所有者不明を防ぎ、所有者の義務として相続登記や住所変更の申請を促進するための措置が取られます。これにより、一部の土地が放置されることなく、適切に管理されるでしょう。
また、特別措置法による相続問題の解消や、地方自治体が管理不全な土地の対策に取り組む体制が強化されます。
これらの施策により、地域の災害対策や都市計画も推進され、地域の活性化につながります。読者の皆様が自身の土地や相続について見直すきっかけとなり、最適な不動産管理を進める手助けになれば幸いです。土地の利用や管理には、今後ますます注目が集まりますので、引き続き情報を追っていきましょう。
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