不動産売却時の「物件調査」とは?不動産コンサルタントが行う4つのプロセスを解説します。
不動産は「個別性の高い資産」であり、その特性ゆえに、価格や価値、法的制限、設備状況などを総合的に把握するための綿密な調査が求められます。
所在地や形状、法的制限、権利関係、物理的現況等、複数の要素が絡み合い、資産価値や取引リスクに重大な影響を及ぼすためです。
相続や売却、一戸建てやマンションの活用、資産組換えといった意思決定の前には、不動産会社や専門家による調査に基づく正確な把握が不可欠です。
このような方におすすめです。
- 不動産を相続予定または相続済みで、何から手をつけていいか迷っている人
- 親の不動産を売却または活用しようとしているが、調査や準備の進め方がわからない人
- 将来的な資産組換えや空き家対策を検討している方やその家族
- 士業や不動産コンサルに相談しようと考えているが、その前に自分で概要を理解したい一般層
本稿では、物件調査の実務において押さえておくべき4つの基本プロセスを提示します。
不動産売却時の物件調査 4つのプロセス

不動産売却時の物件調査とは?
不動産売却時の物件調査とは、売主や不動産会社が土地・一戸建て・マンションなどの不動産価値、権利関係、設備、法令制限、現地状況や取引事例を総合的にチェックするプロセスです。
具体的には、公的書類(登記簿、公図、測量図)から現地の境界・設備状態、さらに周辺環境や過去の取引価格までを調査し、公正な取引や価格算定、トラブル回避を目的とします。
物件調査の目的
不動産の売却において、物件調査はトラブルを防ぎ、スムーズな取引を実現するための出発点です。
登記簿や建築制限などの法的情報から、建物や土地の現況、インフラ設備、周辺環境、過去の取引事例に至るまで、調査すべき項目は多岐にわたります。
これらを正確に把握することで、「適切な価格設定」や「説明義務の履行」、「売却戦略の立案」が可能となり、買主からの信頼獲得や契約後のトラブル防止にもつながります。
ここでは、「不動産売却のための調査」における主な目的を整理してご紹介します。

トラブル防止と法的安全性の担保
登記簿や抵当権・担保などの法務局資料、役所での建築基準法・都市計画法上の制限を確認し、契約後のトラブルや瑕疵責任を未然に防ぎます。
適切な価格算定
建物の現況、インフラ設備(ガス・水道・電力)、境界や土地形状、周辺環境や取引事例、市場動向を鑑みた価格調査によって、売却価格や査定に根拠を与えます。
売却戦略・活用方針の立案
物件の形態(一戸建てかマンションか土地か)によって異なる制限や再建築の可否、インフラ整備状況、リフォームの可否などから、売却タイミングやターゲット層、活用プランを導きます。
【STEP 1】権利関係の確認(登記簿・法務局資料)
不動産の物件調査は、まず登記事項証明書(いわゆる「謄本」)の取得と精読から始まります。
登記情報は不動産の「名義・権利関係」を把握するための最重要資料です。
- 所有者の氏名および住所
- 持分(共有状態の場合)
- 抵当権・根抵当権・地上権・地役権等の負担関係
- 仮登記、差押え等の有無
- 地番・地目・地積、家屋番号・構造・床面積
あわせて、法務局に備え付けられている公図、地積測量図、建物図面等を取得し、位置関係や寸法の整合性を確認します。
なお、土地の履歴や分筆の経緯を追う必要がある場合には、旧土地台帳、旧公図、閉鎖登記簿等の補完資料も閲覧することが求められます(多くは法務局での直接閲覧が必要)。
【STEP 2】法令制限・都市計画情報の精査(役所調査)
次に、市区町村等の役所調査により、当該不動産に課される都市計画法および建築基準法上の制限を明確にします。
主な調査項目は以下の通りです。
- 用途地域(例:第一種低層住居専用地域)
- 建ぺい率・容積率
- 高度地区、景観地区、風致地区等の指定
- 道路(道路種別、幅員、接道接面)
- 区域区分(市街化調整区域等、建築可否への影響)
- 計画道路・都市施設の有無
- 区画整理事業の予定や進捗
- 土砂災害警戒区域、浸水想定区域等のハザード情報
これらは通常、都市計画課、建築指導課、道路課、下水道課等に分かれて存在するため、横断的なヒアリングが必要です。
また、各自治体によって各部署の管轄や名称、資料閲覧の方法・管理、情報公開の積極性も異なるため、役所調査の手順や所要時間も大きく変わります。
さらに制限の内容によっては、土木事務所や区画整理事務所、農業委員会での調査やヒアリングが必要となる場合もあります。
【STEP 3】現況の把握(現地調査および生活環境)
現地調査では、対象不動産の現況を確認します。
ただし、ここで得られるのは「目視・体感に基づく観察情報」であり、法的・制度的情報は含まれません。調査目的を明確にする必要があります。
確認すべき主な事項:
- 建物の老朽化、劣化状態(雨漏り、基礎クラック等)
- 境界杭の有無、塀や工作物の越境状況
- 敷地と前面道路の高低差、接道の実態
- 引込管の確認(上下水道、ガス、電力等)
- 近隣環境(騒音、臭気、交通量等)
建物の構造や基礎、傾き、シロアリ被害の有無等をさらに詳細に把握したい場合は、建築士による「既存住宅状況調査(インスペクション)」を活用します。
また、再建築不可やセットバックの必要性は、現地確認と行政調査の両面から総合的に確認します。
物件ごとの調査
不動産の売却調査では、物件の種類ごとに確認すべきポイントが異なります。
一戸建て、マンション、土地といった物件形態によって、建物の状態や設備の整備状況、土地の法的制限、インフラの接続状況、境界や周辺環境など、調査の着眼点が変わるためです。
売却後のトラブルを防ぎ、適切な価格査定や説明義務の履行を行うには、物件ごとに必要な調査項目を正しく押さえておくことが重要です。
ここでは、「不動産売却における調査項目」を物件の種類別に整理し、それぞれのポイントを紹介します。
一戸建ての調査
建物チェック:老朽化や雨漏り、シロアリ、基礎や構造の劣化、リフォーム履歴を確認。
土地チェック:境界杭・越境有無、実測面積の確認(測量)、地目・接道路況をしっかり把握。
マンションの調査
専有部・共用部設備:給排水・ガス・電気、修繕積立金や管理費の滞納状況、管理組合の規約などを調査。
土地の調査
法令制限:用途地域・建ぺい率・容積率・建築制限、再建築不可やセットバックの有無を調査。
地盤・ハザード:土砂災害や洪水、液状化リスクなど、現地観察と行政情報で把握。
【STEP 4】リスク整理と専門家連携(売却・活用・分割対策)
不動産調査の結果、課題や留意事項が認められる場合には、各種専門家と連携して対応策を講じる必要があります。
代表的な関与者と役割は以下の通りです:
- 土地家屋調査士:確定測量、地積更正登記、分筆・合筆、未登記建物の表題登記、現存しない建物の滅失登記等
- 司法書士:所有権移転、相続登記、抵当権抹消等の登記手続き
- 建築士/インスペクター:既存建物の調査、違反の有無、耐震性能の評価
- 税理士・行政書士:譲渡所得税や相続税の申告、農地転用、調整区域内の許認可等
また、売却や賃貸を前提とする場合には、調査結果をもとに説明義務(告知事項)の整理が求められます。
物理的瑕疵(雨漏り・シロアリ等)や心理的瑕疵(事故物件等)、越境、インフラ未整備、再建築不可などは、取引におけるトラブルを防ぐために、費用や必要なリフォーム、建築基準法の制限情報も含めて、重要事項説明書や契約書への記載・補足資料の準備が不可欠です。
トラブルを未然に防ぐためにも、「知り得た情報は全て開示する」姿勢が重要となります。

専門家に聞いてみたい。でも何を聞けば?という方へ
不動産の調査は、単なる「物件確認」だけではなく、法的・制度的・物理的・人的側面を総合的に検証する作業です。
登記簿や行政情報、現況観察、そして各種専門家との連携を通じて、初めて全貌が明らかになることも少なくありません。
こうした調査結果は、売却可否の判断材料となるだけでなく、相続財産の分割方針、老朽化不動産の利活用、空家対策、収益物件の投資判断など、あらゆる場面に直結します。
しかし実際には、「どこから調べてよいかわからない」「専門家に相談する前に、まず何をすべきか迷っている」という声も多く聞かれます。
弊社では、こうした不動産調査を起点に、相続や資産整理、財産診断のご相談を総合的に承っています。
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