おひとりさまをはじめ、親族に頼らず成年後見制度を利用する人は近年増えています。
成年後見制度は使うべきなのか?で、おひとりさまの相続対策には、成年後見制度についての理解が不可欠と書きましたが、「成年後見制度とは何か?」については、書籍なども多いため今回のコラムでは触れません。
今回は、成年後見制度のデメリットについてご紹介いたします。
実務で経験した成年後見制度の4つのデメリット
私も後見人の業務を経験していますが、実際に経験して感じた成年後見制度のデメリットをご紹介いたします。
デメリット① 財産の変更や活用ができない
裁判所は「本人の財産保護」の観点から監督するため、他の親族のために財産を使用したり、不動産投資などの資産運用はできません。例えば、ご夫婦のうち1人が成年後見制度を利用すると、同居している配偶者の生活費に使うことができないことが実際にありました。夫婦の場合、2人で生活費を使う場合がほとんどですから、食費もきっちり分けて管理する必要があると非常に大変です。
デメリット② 成年後見人に対する報酬がかかる
弁護士等の専門家が成年後見人となる場合には、報酬を支払う必要があります。(月額3万円~5万円)また、専門職が後見人になった場合でも、その後見人を監督する後見監督人が選任されると、監督人にも報酬が発生するため(月額2万円前後)、支出がとても高額になります。
デメリット③ 途中で解任できない
成年後見人を一度選任すると、特別な理由がない限り基本的には被後見人が死亡するまで続きます。成年後見人になった弁護士と性格が合わないから変えたい・・。よくあるご相談なのですが・・・性格の不一致では残念ながら変えられません。
デメリット④ 権限が限られている
財産管理・身上監護が成年後見人の主な権限であるため、高齢者の日常生活を支援するものになっていません。例えば、おひとりさまが特に困る病院へ入院する際や高齢者施設に入居する際に必要となる「身元保証」は弁護士や司法書士などの職業後見人が行うと利益相反になってしまうため、法的に対応できないとされています。もちろん買い物や病院の付き添い等も原則は行わず、付き添いや介護サービスの手配をするだけです。後見人は何でもやってくれる!という訳ではないので、使いにくいと感じる方も多いようです。
おひとりさまの相続対策には、成年後見制度の理解が不可欠ですが、成年後見制度にはデメリットが正直あります。ただ、デメリットを解消する方法もありますので、別のコラムでご紹介いたします!
成年後見人には親族が望ましいはウソ?
成年後見制度は平成12年に施行されました。
下記の表を見てみると、制度開始当初は親族が望ましいとされ、後見人になるケースが多くを占めましたが、平成24年に親族以外の第三者(専門職等)が逆転。現在は親族以外の第三者(専門職など)が約80%を占めています。
成年後見制度の安易な利用は危険
「成年後見制度は、成年後見人の不正の事件が危険...」
制度開始直後は、親族後見人による本人の財産の使い込みが特に問題になりました。親族と親族以外の第三者(専門職)が選任される割合が逆転したのは、親族後見人による不正案件が増え始めた平成24年からです。
しかし、専門家(弁護士・司法書士)の成年後見人も財産を着服するニュースも度々報じられるようになりました。ご存知の方が多いと思います。
私も、顔見知りだった司法書士が後見人の財産の着服で逮捕されるということを経験しました。預かっていた財産を株の投資に利用。失敗して回収できなくなったようです。
お預かりした財産を運用するなんて信じられない。
とても温和な先生だったのに。
とてもショックを受けました。
さて、話をもとに戻すと、不正が続いていた成年後見制度ですが、近年は成年後見人による事件は減少しています。
下記の表のとおり、平成26年をピークに不正の件数・被害総額はいずれも減少傾向。親族後見人等に対するガイダンスや平成24年から開始した後見制度支援信託等など、裁判所が様々な取り組みをしているのですが、その取り組みが効果を上げていることが分かります。
成年後見制度の廃止勧告!?
2022年10月7日に国際連合から現行の成年後見制度に関する「懸念」と「勧告」が公表された。
現行の成年後見制度は後見人の効力が強く、障害者の固有の自己決定権が保障されていないのはないか?といった内容でした。
27.委員会は、以下を懸念する。
国際連合 日本の第1回政府報告に関する総括所見
(a) 意思決定能力の評価に基づき、障害者、特に精神障害者、知的障害者の法的能力の制限を許容すること、並びに、民法の下での意思決定を代行する制度を永続することによって、障害者が法律の前にひとしく認められる権利を否定する法規定。
(b) 2022年3月に閣議決定された、第二期成年後見制度利用促進基本計画。
(c) 2017年の障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドラインにおける「the best interest of a person(本人の最善の利益)」という言葉の使用。
28.一般的意見第1号(2014年)法律の前にひとしく認められることを想起しつつ、委員会は以下を締約国に勧告する。
(a) 意思決定を代行する制度を廃止する観点から、全ての差別的な法規定及び政策を廃止し、全ての障害者が、法律の前にひとしく認められる権利を保障するために民法を改正すること。
(b) 必要としうる支援の水準や形態にかかわらず、全ての障害者の自律、意思及び選好を尊重する支援を受けて意思決定をする仕組みを設置すること
その「懸念」と「勧告」に対して、2023年2月7日に日本政府から回答文が公表されました。
日本政府は、2022 年 3 月に閣議決定された成年後見制度利用促進基本計画に基づき、障害者及びその代表団体の関与の下、成年後見制度の包括的な見直しを検討されています。
外務省 第1回政府報告に関する障害者権利委員会からの事前質問への回答
- 成年後見制度は、判断能力の程度に応じた類型、意思の尊重、司法機関による審査が民法により確保されている(詳細は別添)。我が国では、成年被後見人の自己決定権を尊重し、成年後見人が本人の意思決定を支援する形での取組を進めている。日本政府は、2022 年 3 月に閣議決定された成年後見制度利用促進基本計画に基づき、障害者及びその代表団体の関与の下、成年後見制度の包括的な見直しを検討している。
よくある質問
- 家族が成年後見人になれるか?
-
欠格事由の対象とならなければ、家族でも後見人になることができます。
- 後見人の親族の割合は?
-
親族が後見人になる割合は、制度開始の平成12年に90%であったが、親族後見人による本人の財産の使い込みなどの問題により、令和4年には19.1%まで減少している。
- 成年後見人には誰でもなれるのか?
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特に資格等は必要ないので後見人候補者になることは可能。しかし、家庭裁判所が後見人の選任を行うので、家庭裁判所の判断によっては他の専門職後見人が選任される場合があります。
- 成年後見人になることができない人は?
-
以下に該当する方は成年後見人になることができません。
- 未成年者
- 裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人、補助人
- 破産者
- 被後見人に対して訴訟をした人とその配偶者、直系血族
- 行方不明者
成年後見制度のデメリットのまとめ
成年後見制度のデメリットの4つを実体験を交えながら、具体的に解説しました。
成年後見制度のデメリットは次の通りです。
- 財産の変更や活用ができない。
- 成年後見人に対する報酬
- 途中で解任できない。
- 権限が限られている。
また国連からも現行の成年後見制度について、「懸念」と「勧告」が出されていました。
成年後見制度利用促進基本計画に基づき、20年以上改正されてこなかった内容に検討が進められています。
今後、民法改正によっておひとりさまや障害者の方が利用しやすい制度になることを期待しています。
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