相続対策を進める上で、「地域包括ケアシステムってどういう仕組み?図でわかりやすく知りたい...」「おひとりさまの相続って、家族がいない場合はどうすればいいの...?」
そう思う方もいるのではないでしょうか。
超高齢社会に向けて、自立と支援を両立するためには、地域包括ケアシステムの全体像を図で把握し、特に“おひとりさま”が直面する相続や老後の課題に備えることが重要です。
本記事では、地域包括ケアシステムの構造や役割を図解で解説するとともに、おひとりさまが直面しやすい相続や成年後見の課題、その対策方法についても具体的にご紹介していきます。
2040年には〝35%が65歳以上〟という日常
総務省が毎年9月「敬老の日」にちなんで高齢者の統計をまとめています。
こちらの統計によると、2040年には、35%が65歳以上という試算になっています。

2040年の日本は“支え手1000万人減・後期高齢者500万人増”の国になる
2025年には高齢化率が30%に達しますが、2040年には総人口1億1,428万人のうち4,062万人(35.5%)が65歳以上となり、後期高齢者(75歳以上)は約2,600万人へ膨張します。
支え手である15〜64歳人口は7,300万人から6,213万人へ。20年間で1000万人の純減です。数字は黙って未来を語ります。

介護の現場では、厚労省試算で57万人の人材不足が見込まれ、必要な介護職員は272万人に跳ね上がります。

詳細は「第9期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について(令和6年7月12日)」別紙1 をご覧ください。
一方、社会保障給付費は190兆円規模へ膨張する見通しで、財政の“ストレッチ”は限界に近づきます。
課題は三重苦 ――「長生き」「人手不足」「お金不足」
2040年の試算を見たところで、具合的にどういった課題に直面しているか見ていきましょう。
キーワードは、「長生き」「人手不足」「お金不足」です。
- 長生きリスク
認知症高齢者は700万人時代。要介護期間が長期化し、医療・介護コストが雪だるま式に増える。 - 人手不足リスク
ケアワーカーだけでなく、看護師・理学療法士・介護タクシー運転手まで慢性的に足りない。 - 財源リスク
現役世代の負担増は限界。「誰がどこまで払うか」を再設計しなければ制度疲労は避けられない。
戦後しばらく、日本の高齢者福祉は〈行政が必要と判断した人を施設へ“措置する”〉老人福祉法(1963 年)方式でした。介護にかかる費用は公費負担、利用者はメニューを選ぶ主体ではなく、市町村長の決定に従うだけ。
さらに判断能力が著しく低下した人は民法上「禁治産・準禁治産」と宣告され、ほぼすべての法律行為能力を失う。いわば「保護と排除」が表裏一体の仕組みだったのです。
転機は、急激な高齢化と家族形態の変化が顕在化した1990 年代半ば。要介護高齢者の増加で公費措置は財政的に限界に達し、家族の担い手も細るなか、1997 年に介護保険法が成立します。
理念は、〈自立支援・利用者本位・社会保険方式〉40 歳以上が保険料を負担し、サービスは本人(または代理人)が契約で選ぶ方式です。新制度の実施(2000 年4月)に合わせ、旧禁治産制度を廃し本人の意思をできる限り活かす成年後見制度(後見・保佐・補助)が同日スタートし、“費用のインフラ”と“契約・権利のインフラ”が同時に整いました。
制度刷新から四半世紀。2024 年時点で高齢化率はほぼ3割、後期高齢者(75+)は 2,100 万人を超え、世界に例のないスピードで「超高齢社会」が進行しています。
そして2040 年には総人口が約1億1,400 万人に減る一方、65 歳以上は 4,000 万人超と全体の35%を占め、生産年齢人口は現在より 1,000 万人ほど少なくなる見通しです。
こうした人口構造の変化は、①要介護・認知症の急増による量的ギャップ、②介護職や後見担い手の人的ギャップ、③医療・介護給付費膨張という財源ギャップを同時に拡大させます。
これを乗り切る鍵として国が掲げるのが「地域包括ケアシステム」。

介護保険が担う費用とサービス、成年後見が担う契約と権利擁護を30 分圏域で束ね、ICT・ロボット・ボランティアポイントといった新しい支え手を組み込みながら、「支えられる側」と「支える側」を滑らかに行き来できる地域モデルへアップデートすることが求められています。
年表でみる「高齢化社会 × 介護保険 × 成年後見」の軌跡 (1960-2040)
現状を見た上で、相続対策に欠かせない、「高齢化社会 × 介護保険 × 成年後見」を年表で見ていきましょう。
全体を通して見ることで、高齢化の動き・人口構造に合わせて制度が進化していることがわかります。
年代 | 高齢化の動き・人口構造 | 介護保険(給付と負担の仕組み) | 成年後見(契約・権利擁護の仕組み) |
---|---|---|---|
1963 | 高齢化率 6% ─ 老親扶養は家族任せ | 老人福祉法:市町村長の“措置”で施設入所を決定 | 旧民法の禁治産・準禁治産制度(1898〜)が続く |
1973 | 「老人医療費無料化」で医療需要が急増 | -- | -- |
1989 | 高齢化率 11% │ 要介護者の長期化が顕在化 | ゴールドプラン(10年で在宅介護基盤を倍増) | -- |
1994 | 高齢化率 14%(“高齢化社会”到達) | ゴールドプラン21で在宅・施設拡充 | -- |
1997 | 要介護高齢者が300万人超 | 介護保険法 成立──社会保険方式へ転換、利用“契約”を制度化 | -- |
1999 | 認知症高齢者の急増が社会課題に | 民法改正で成年後見制度創設(後見・保佐・補助) | |
2000.4 | 高齢化率 17% | 介護保険・地域支援事業 施行(第1期事業計画) | 成年後見制度 施行禁治産制度は廃止 |
2005 | 75歳以上が1,200万人 | 地域包括支援センター発足、介護予防重視へ | 市町村長の後見申立て制度を整備(虐待防止法連動) |
2007 | 高齢化率 21%(“超高齢社会”) | ||
2015 | 認知症600万人推計 | 介護保険改正:地域包括ケアシステムを政策柱に | 成年後見制度利用促進法(2016施行) |
2018 | 生産年齢人口▲500万人(1997比) | 介護人材不足が顕在化 ─ 処遇改善加算の拡充 | ― |
2022 | 第8期介護保険計画(2024-26)策定 | 自立支援・重度化防止インセンティブを本格導入 | 第2期 成年後見利用促進基本計画(中核機関を全国配置) |
2024 | 出生数 68.6 万人(過去最少)│高齢化率 30% | 介護報酬改定 +1.59% 処遇・ICT評価を強化 | 法制審で2026年民法改正へ論点整理(本人意思尊重・柔軟な終結) |
2025 | 75歳以上 2,180万人、介護職員69万人不足見込み | ― | ― |
2030 | 65歳以上が3,900万人超 | デジタル包括ケア普及期(オンライン診療・ロボット介護) | 本人意思のデジタル管理(e-ACP・電子後見契約)開始か |
2040(推計) | 総人口 1億1,428万人 / 65歳以上 4,062万人(35.5%) / 75歳以上 2,600万人 支え手▲1,000万人 | ケアは在宅+小規模多機能中心、財源再設計へ | 後見・補助・任意後見の“地域常設”モデルが標準化 |
参考資料①:厚生労働省「地域包括ケアとその体制確保のための医療介護連携、介護予防・健康づくり、認知症ケアについて」
参考資料②:厚生労働省「成年後見制度の見直しに向けた司法と福祉との連携強化等の総合的な権利擁護支援策の充実について」
参考資料③:Shoukibo.net「在宅の包括報酬型サービスとしての小規模多機能型居宅介護の価値(生産性の向上による効率化)」
2040年への具体アクション「地域包括ケアシステム2.0」
キーワードは“30分圏域OS”
地域包括ケアシステムとは、住まい・医療・介護・予防・生活支援+権利擁護を 30 分圏域にフルセットで揃える地域の“オペレーティングシステム”です。

介護保険が担う費用とサービス、成年後見が担う契約と権利擁護を30 分圏域で束ね、ICT・ロボット・ボランティアポイントといった新しい支え手を組み込みながら、「支えられる側」と「支える側」を滑らかに行き来できる地域モデルへアップデートすることが求められています。
下記では役割別とステークホルダー別に具体アクションを記載しております。
役割別アクションプラン
役割 | 2040年への具体アクション |
---|---|
健康寿命延伸 | フレイル健診を75歳全員へ。ケアマネ & かかりつけ医がAIリスクスコアを共有し、介護予防ポイントを付与。 |
在宅完結ケア | 訪問看護×オンライン診療×服薬ドローン配送で、入院日数を▲20%。看取りの6割を自宅・施設へ移行。 |
支え手創出 | ICT・ロボットが移乗や搬送を代替し、1人当たり業務量を25%削減。地域ポイント制度でボランティアを掘り起こし。 |
権利擁護 | 市町村「中核機関」がケアマネと成年後見人を常時接続。虐待・経済搾取の再発率を半減させる。 |
ステークホルダー別アクションプラン
主体 | 直近(~2025) | 中期(2026-32) | 2040 方向 |
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自治体 | 中核機関/地域包括支援センターの機能統合 | デジタル包括ケア基盤をクラウドで共通調達 | “30分圏域”インフラの最終チューニング |
国 | 報酬・交付金でDX・予防インセンティブ付与 | 財源再設計:資産課税・自己負担上限の再定義 | 全世代型社会保障の定着検証 |
民間事業者 | ロボット・AI の PoC 拡大 | 介護×FinTech(リバモ・信託型資金管理)事業化 | ハイブリッド型まちづくり(住まい+ケア+商業) |
市民・NPO | 互助ポイント実証、ACP普及 | デジタル地域通貨で支援時間を可視化 | 相互扶助経済圏の“市民株主”へ |
健康寿命が延びても「おひとりさま」で迎える終末期は準備が要になる
平均寿命と健康寿命の差が広がる中、特に「おひとりさま高齢者」にとっては、介護・相続・生活資金の不安が現実的な課題となります。
2040年には単身高齢者が急増し、多くの方が家族の支援を得られない状況に直面します。健康寿命を延ばす生活設計や、相続対策・成年後見・老後の住まいなど、自立した終末期に必要な備えについて、早期に準備することが要となります。
1. データでみる健康寿命と余命ギャップ
要介護を抱えながら暮らす期間は平均で男性約 8.5 年、女性約 11.6 年に及ぶ。
単身者の場合、このギャップ期間を誰が・どう支えるかが最大のリスクになります。
2. 「おひとりさま」高齢者が激増する構造
- 2040 年には高齢世帯 2,404 万世帯のうち 4 割弱が単独世帯。
- 男性単独高齢世帯の 未婚率は 2020 年 33.7%→2050 年 59.7% に跳ね上がる見込み
家族によるサポートが期待できない人が過半を占め、健康維持+終活設計を早期に自前で行うことが必須になります。
おひとり様の相続対策、老後資金・生活設計、お住まいや不動産の問題、成年後見・信託など権利擁護のお悩みについて、BFコンサルティングでは初回無料でご相談を承っています。
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