借地権の更新料・建て替え承諾料・名義変更料の相場は?必要可否やトラブル防止法など

借地権の更新料・建て替え承諾料・名義変更料は必要?

借地権の更新料、建て替え(増改築)承諾料、名義変更料(名義書換料)などの相場や地主への支払い有無について知っていますか?

結論、借地権は代々続く「慣例」に従うのが一番です。

もともと地主から善意で借りた土地であることが多く、先代、先々代が知った人に善意で貸した(借りた)土地です。法は、指標の一つにすぎず、先代・先々代から引継いだ慣例に倣って良い関係性を維持するのが一番でしょう。

かといっても、「更新料を高く請求された」「建物を建て替えたいけど地主にどう言えばいいの?」「相続や遺贈の際の対応は?」など場面によってどうすれば良いか分からない場合がありますよね。

そこで今回は借地権の歴史、相場や地主への支払い有無を整理して、場面ごとのトラブル防止法について解説していきます。

佐賀大学卒業
公共土木設計に10年、測量・登記・開発に16年、不動産実務に13年、相続・後見に11年。
保有資格は土地家屋調査士、測量士、2級建築士、宅地建物取引士、相続対策専門士など他多数。
実務実績は相続相談件数が2,000件、任意後見契約数が300件、不動産売買仲介数が350件など他多数の豊富な実績。
コラムは実務での実体験を交えてわかりやすく解説しています。

トータル50年の実務実績を活かし、現在は不動産で悩む人がいなくなるよう、正しい不動産の知識を広める活動をしています。

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目次

借地権はなぜ生まれたか?

借地権とは地主(土地の持ち主)から土地を借りる権利のことです。

トラブルが多く、マイナスなイメージがある借地ですが、歴史背景を知っていくと答えが見えてくるかもしれません。

明治42年建物保護法制定・施行
大正10年借地法制定・施行
昭和16年借地法改正(正当事由)
昭和42年借地法改正(借地非訟手続)
平成3年借地借家法制定(平成4年施行)

江戸時代は土地に価値がなかった!?

江戸時代は封建制度により、農民は土地を耕作して大名に年貢を納めていました。都会では大名たちは武家屋敷を持ち、庶民は下町に住んでいました。「土地を所有する」という考えは当時はなく、建物に財産価値がありました。

明治時代によると民法が導入され、土地の所有権が認められるようになりました。土地を所有する者は多額の税金は払う納税義務者となったのです。当然ながら庶民は手を出せず、借地に家を建てることが主流となり、借地人が少しずつ増えていきました。

明治時代に借地制度が加速する

明治時代は近代化の波に乗って、資本主義国家へ変わりつつありました。産業の発展により、土地価格も上昇しました。

また民法には「土地の所有者が変わると借地人は建物を取り壊して、土地を明け渡さなければならない。」とされており、借地人の立場が弱い状態でした。この問題を解決するために明治42年に「建物保護に関する法律」が制定され、借地人は建物を登記することで地主に対抗できるようになりました。

その後、大正10年に借地借家法の前身である「借地法」「借家法」が成立され、借地人の法的地位を安定的に保護することを目指しました。借地権は建物の所有を目的とする地上権と定義されて、契約の更新、建物を建て替える際には、地主の承諾が必要となりました。

今度は地主が苦しい立場となります。昭和16年に借地法改正によって「正当事由」制度が導入されて、貸借人が多い出征兵士の暮らしを守る目的で、借地契約の更新を拒否することが不可能になる改正がされました。さらに国家総動員法によって賃料も公定価格となったことで一度貸してしまうと、他の用途で使用することもできず、賃料の引き上げもできなくなりました。

平成時代に借地借家法が誕生するも、残る旧法...

戦後、賃料の統制は緩和されましたが、「正当事由」制度が残ったことで「土地を一度貸したら返ってこない」という慣例が生まれました。戦後の混乱の中で善意で土地を貸したところ居座り続けたり、期間を設けていたつもりが返ってこなかったりと地主の悩みが増えたのです。これでは土地を貸そうと気になる地主も減り、土地の活用が難しくなりました。

時代は進み、土地価格の上昇やバブル崩壊によって、「土地を保有するよりも利用すること」が必要という認識が広がりました。この世の中の流れで平成3年に「借地借家法」が誕生しました。

しかし、新法が誕生するも、それ以前の借地には旧法が適用されることが多く、相続などで代々引き継がれてきた借地の場合は旧法が適用されているものがほとんどではないでしょうか?旧法が適用されることで、土地の代替わりや契約の不明確さがとても多いことでトラブルの原因となっています。

借地権の更新料は必要?

借地権の更新料とは、借地の契約更新時に借主が地主へ支払うお金のことです。では、契約更新の際に地主へ更新料を支払う義務はあるのでしょうか?

結論は、法律上の支払い義務はありません。

ただし、以下のような場合には、更新料を支払う義務があります。

  • 更新料を支払うことを明記した契約書を締結している場合
  • 更新料を支払うことを双方が合意している場合

支払いの合意は口頭で成立しますので注意が必要です。口頭の場合、トラブルの原因となることもあるため、書面を残しましょう。なお、契約や合意がなくとも、更新料を支払ったほうがいい場合があります。

例えば、地主との関係を良好に保つことが重要と考える場合には、更新料を支払います。借地の建物を建て替える際や、借地権を他人に譲渡する際に、地主の承諾が必要です。普段から地主と良好な関係を築くことで、承諾を得られやすくなります。

なお、契約書に更新料の記載がない場合、原則支払い義務はありませんが、例外として過去の更新料の支払い実績をかんがみて、次回更新が法定更新でも更新料の支払義務が生じるという判例もあります。

更新料の相場および計算方法

更新料の相場は、更地価格の3%~5%程度です。

更地価格とは、その土地の時価を指します。

仮に更地価格が3,000万円の場合は、3,000万円×3%~5%=90万円~150万円程度となります。

ただし、あくまで上記の相場は目安です。不動産価値の高い都心では更新料が高く、不動産価値が都心ほど高くない郊外では更新料が安くなる場合もあります。その点を考慮の上、参考にしてください。

更新料が高すぎる場合、値下げ交渉はできる?

地主から相場より高い更新料を請求された場合、値下げ交渉や拒否ができるのでしょうか?

結論は、高すぎるものに関しては支払い義務はなく、値下げ交渉も可能です。

しかし、更新料の支払いを一方的に拒絶してしまうと地主との関係は悪化します。金額交渉にあたっては、地主と話し合い、円満な解決を目指しましょう。双方の話し合いで解決できない場合は、弁護士や専門家に相談する手もあります。

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    借地権の建て替え承諾料(増改築承諾料)は必要?

    借地権の建て替え承諾料(増改築承諾料)とは、建物を建て替える際に借主が地主へ支払うお金のことです。

    では、建て替えの際、地主へ建て替え承諾料を支払う義務はあるのでしょうか?

    結論は、法律上の支払い義務はありません。

    ただし、更新料の支払いと同様、契約書に明記されている場合や、双方が合意している場合、支払いの義務が生じます。

    建て替え承諾料の相場および計算方法

    建て替え承諾料の相場は、更地価格の3%~5%程度で、更新料の相場とほぼ変わりません。一部建て替え時の承諾料の相場は、更地価格の2%~3%程度と低くなる場合もあります。

    なお、木造などの非堅固な建物から鉄筋などの堅固な建物へ建て替える場合、借地契約の期間が、20年から30年へ条件変更されます。

    その際の、条件変更承諾料の相場は、更地価格の10%程度となります。仮に更地価格が3,000万円の場合は、3,000万円×10%=300万円程度となります。

    借地権の建て替えは地主の承諾が必要?

    借地権の建て替えは、地主の承諾が必要です。承諾が得られない場合、地主に対して建て替えたい旨を通知し、2カ月以内に異議申し立てがなかった場合、借地借家法の規程により承諾したとみなされます。

    借地権者が借地権設定者に対し残存期間を超えて存続すべき建物を新たに築造する旨を通知した場合において、借地権設定者がその通知を受けた後二月以内に異議を述べなかったときは、その建物を築造するにつき前項の借地権設定者の承諾があったものとみなす。ただし、契約の更新の後(同項の規定により借地権の存続期間が延長された場合にあっては、借地権の当初の存続期間が満了すべき日の後。次条及び第十八条において同じ。)に通知があった場合においては、この限りでない。

    法務省 借地借家法 第7条2項

    地主の承諾は、契約更新前に必要であり、契約更新後に建て替えをする場合は、地主の許可が必要です。

    また、地主から承諾を得られても、法改正等により現在の法律に適合しなくなった建築物である既存不適格や、接道義務を満たしていない建物は、建て替えられない場合がありますので、注意が必要です。

    建築物の敷地は、道路(次に掲げるものを除く。第四十四条第一項を除き、以下同じ。)に二メートル以上接しなければならない。

    国土交通省 建築基準法 第43条1項

    借地権の名義変更料(名義書換料)は必要?

    借地権の名義変更料(名義書換料)とは、借地権を他人へ譲渡・転貸しようとした際に借主が地主へ支払うお金のことです。

    では、譲渡・転貸の際、地主へ名義変更料を支払う義務はあるのでしょうか?借地権を他人に譲渡・転貸する際は、民法の規程において、地主の承諾を得なければなりません。

    賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。

    法務省 民法 第612条1項

    法律上は承諾料を必要とする規定はないのですが、承諾料を支払わなければ、地主は譲渡を認めません。よって、借主が地主から承諾を得るためには、名義変更料(承諾料)を支払わざるを得ないのです。

    なお、借地権を無断譲渡した場合、地主から契約解除される可能性もありますので、注意が必要です。

    名義変更料の相場および計算方法

    名義変更料の相場は、借地権価格の10%程度です。

    借地権価格とは、更地価格×借地権割合のことです。よって、名義変更料の相場の計算式は、以下です。

    名義変更料の相場=更地価格×借地権割合×10%程度

    借地権割合は、国税庁のホームページにある路線価図・評価倍率表から確認できます。仮に、更地価格が3,000万円、借地権割合が60%の場合は、(3,000万円×60%)×10%=180万円程度となります。

    相続における名義変更料は必要?

    相続は、民法 第612条の譲渡・転貸に該当しないため、地主への名義変更料の支払いは不要です。ただし、土地と建物の登記状況に応じ、相続人は所有権移転登記などの名義変更手続きが必要です。

    借地権が登記されていない場合、借地権を新しく登記する必要はありません。建物についてのみ、故人から相続人へ名義変更します。借地権が登記されている場合、借地権および建物について、故人から相続人へ名義変更します。

    相続人は名義変更料を支払う義務がありませんが、地主との関係を良好に保つためにも、地主へ相続の発生をすみやかに報告しましょう。その際、口頭ではトラブルの原因となることもあるため、書面を残しましょう。

    遺贈における名義変更料は必要?

    遺言によって財産を法定相続人以外の者に引き継がせることは「遺贈」となります。

    遺贈は民法612条第1項の譲渡に該当し、地主の承諾を得るための名義変更料の支払いが必要です。地主の承諾を得られない場合、裁判所が地主の承諾に代わる許可を出す制度があります。 裁判所の許可があれば借地権の譲渡ができますので、検討してみましょう。

    よくある質問

    借地権の更新料は義務ですか?

    契約書の定めや口頭で合意を得られていない場合は、原則支払い義務は発生しません。

    土地の名義変更の費用はいくら?

    名義変更料の相場=更地価格×借地権割合×10%程度

    借地権割合は、国税庁のホームページにある路線価図・評価倍率表から確認できます。仮に、更地価格が3,000万円、借地権割合が60%の場合は、(3,000万円×60%)×10%=180万円程度となります。

    まとめ

    借地権の更新料・建て替え承諾料は、法律上の支払い義務はありませんが、契約書に明記されている場合や、双方の合意がある場合、支払い義務が発生します。

    相場は、更地価格×3%~5%程度です。

    借地権の名義変更料は、借地権を他人に譲渡・転貸する際の地主への承諾料として、支払う必要があります。

    相場は、借地権価格×10%程度です。

    相続における場合は、名義変更料の支払い義務は発生せず、遺贈の場合は、支払いが必要です。

    これらの相場の価格は、目安であり、慣例に従うのが一番です。

    歴史を振り返ってきましたが、時代の流れの中で知り合いに善意で貸した土地が多かったように、法による縛りよりも代々からの関係性の結びつきのほうが強いことがわかります。

    長く続いた関係性を自分で壊すのは気が引けるものです。そういった歴史的背景を理解した上で話し合いをして良好な関係性を保つことを目指してみてはいかがでしょうか。

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