60代のNISAは遅い?相続のプロが教える「増やす・守る・渡す」設計図

60代のNISAは遅い?相続のプロが教える「増やす・守る・渡す」設計図

令和6年度のNISA拡充以降、「親の資産もNISAに入れた方がいいのでしょうか?」「60代から積立NISAを始めるのは遅いのでは?」「高齢者がNISAを始めても意味があるの?」という相談を受ける機会が増えました。

非課税で運用できる制度なのだから、使わないのはもったいない。そう考えるのは自然です。

ただ、全体最適を目指す相続コンサルタントとして感じるのは、「NISAを使うこと」自体が目的化してしまっているケースが多いということです。
実は、60代の積立NISAが遅いかどうかは年齢ではなく、「誰のためのお金なのか」「いつ、誰が使うお金なのか」という視点で決まるのではないでしょうか。

重視したいのは、単発の制度利用ではなく、2世代、3世代先まで含めた資産形成です。

今回は、NISAの制度説明というよりは「NISAの立ち位置」という視点、そして2世代・3世代先まで含めた「増やす・守る・渡す」の設計図について解説していきます。

不安を安心に変える相続コンサルタント「とうやま」です。証券会社でリテール営業を経験後、相続・不動産専門の税理士法人で相続コンサルタントとして従事。
保有資格はAFP、上級相続診断士、宅地建物取引士、J-REC不動産実務検定1級、2級。
金融×税務×不動産の経験を武器に、フットワーク軽くお悩み解決のお手伝いをしています。仕事のモットーは「聞く聴く訊く→応える」。「何が悩みかもわからない…」「何から相談すればいいか分からない…」といったお話から、丁寧にサポートしていきます。

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目次

そもそも、なぜNISAは作られたのか

2014年からスタートしたNISA制度。

当時は「お金持ちが資産運用でさらにお金持ちになっているのに、なんでわざわざそこに非課税枠をつくるの…?」との声もあったとか。

一部批判もありながら何故NISAは作られたのか?考えたことございますでしょうか。


背景にあるのは、“公的年金だけでは将来の老後資金が十分に確保できない”という現実です。だから国は、家計の資金を「貯蓄から投資へ」動かし、長期・積立・分散投資で資産形成を支援する制度としてNISAを育ててきました。

下記は、日経新聞による2014年の記事です。

言うまでもなく、日本は超高齢化社会。

働き盛りの若い世代が少なく、高齢者が多い時代。今までの年金制度を維持するのはとてもとても難しいです。

つまり国は、「自分の老後資金は、自助努力で準備してください」というメッセージを発しているわけです。
そのために用意されたのが、非課税で資産形成ができる仕組みとしてのNISAです。

始まってから12年弱で、多いのか少ないのか約2700万口座まで増えました。(2025年6月末時点)

NISAは長期・分散の積立投資向けの制度である

制度上、NISAでは個別株式・短期投資もできます。

但し、非課税枠最大1800万円までに対して、成長投資枠は1200万円までと制限がかかっています。

またつみたて投資枠では初めて投資を始める方向けに、投資対象の金融商品を金融庁がチェックしてくれています。(「長期の積み立て・分散投資に適した一定の投資信託(金融庁の基準を満たした投資信託に限定)」)

制度設計の思想としては、短期売買で成果を出すことよりも、「長期・分散・積立」を前提としているといえるのではないでしょうか。

ちなみに金融庁公式で、「つみたてワニーサ」と言う名の積み立て投資のキャラクターまでいます(笑)

つみたてワニーサ
金融庁「つみたてワニーサについて」

短期売買や一括投資で成果を出すことを想定した制度ではありません。
この前提を外してしまうと、NISAの本来のメリットは十分に活かせなくなります。

60代からの資産運用、NISAは遅い・・・?「お金はあるが、時間がない」

金融資産の保有額を見ると、高齢層ほど多くの資産を保有している傾向があります。

一方で、長期・分散投資を前提にすると、60代・70代は決して余裕のあるスタート地点ではありません。
相続という出口が見え始める世代では、運用期間が結果に与える影響が大きくなります。
「お金はあるが、時間がない」という状態では、制度本来の強みを活かしきれないこともあります。
だからこそ、運用ではなく“設計”の視点が重要になります。

若年層×NISAの積立投資が「◎」な理由

一方で、若年層にとってのNISAは非常に相性の良い制度です。
若年層は、資金に余裕があるとは言えませんが、時間という大きな資産を持っています。

短期的な価格変動を誤差として受け止め、指数(インデックス)中心の投資信託などで、長期的に積み上げることができます。
この「時間の優位性」は、60代が真似しにくい部分です。だから60代は、若年層と同じ運用戦略を目指すより、役割分担(設計)を考える方が全体最適になりやすいのです。

高齢者のNISAは意味ないのか?70代でもメリットがある考え方

では時間がない高齢者にとって、長期・積み立てでNISAを活用することは意味ないのでしょうか?

考え方次第では高齢者のNISAも有効に活用できることがあります。

親世代に相続が起こり、NISA口座で運用していた有価証券が子世代に相続されることになった場合、残念ながら子世代のNISAに移すことはできません。

しかし、親世代で投資してから相続発生までの利益については譲渡税が課税されず、相続時点での価格が買値として子世代に引き継がれます。

この時に単に残高を相続するだけでなく、「なぜこの銘柄に投資をしたのか?」「なぜこのタイミングで投資したのか?」という投資ノウハウも相続できたら、二代・三代に渡る資産形成も可能なのではないでしょうか

つまり高齢者のNISAは、自分だけで完結させるものではなく、次の世代へ"資産と知恵"を渡すための土台になり得るのです。

60代が“いま”やるべき最低限の準備(チェックリスト)

口座や銘柄より先に、家族が困らない情報整理が最優先です。

  • どの金融機関に、どの口座があるか(口座一覧)
  • 生活費はいくら確保しているか
  • 投資は余裕資金の範囲か
  • 売却・取り崩しの目安(いつ/いくら)
  • 家族への共有(配偶者・子どもに伝わる形)

この5つが整っていなければ、NISAの銘柄選びやポートフォリオ設計を急ぐ前に、まずここから始めましょう。

60代のリスク管理と下落時の対応

若年層であれば、相場が下落しても「待てばいい」という時間のクッションがあります。

しかし60代・70代は、生活費や医療・介護費として資産を取り崩す時期が近い、あるいはすでに始まっている世代です。下落のタイミングと取り崩しのタイミングが重なれば、回復を待つ余裕がないまま資産が目減りしてしまうリスクがあります。

だからこそ、60代からのNISA活用では「どのくらい下がっても生活に支障がないか」というリスク許容度を先に見極めることが出発点になります。

リスク許容度の見極め方と長期シミュレーション

リスク許容度とは、どこまでの損失なら許容できるかという個人の基準です。毎月の生活費が年金でどの程度まかなえるか、不足分はいくらか、投資資産が30%下落した場合の金額に耐えられるかという問いが判断の軸になります。

60代でNISAを始めた場合、10年後の資産の目安を示します。

投資額年利(想定)10年後の試算額備考
1,000万円3%約1,344万円低リスク・安定重視
1,000万円5%約1,629万円バランス型
1,000万円7%約1,967万円成長重視・リスクあり

※税引前の概算です。実際の運用成果は市場環境により異なります。あくまで余裕資金の範囲で運用することが前提です。

60代に合ったポートフォリオの考え方

シミュレーションの数値はあくまで参考ですが、それよりも先に決めておきたいのがどんな配分(ポートフォリオ)で運用するかです。

資産配分の目安として、よく使われる考え方が「100-年齢=株式の比率」です。60歳なら株式40%・債券60%程度が一つの目安になります。

以下は、60代向けのリスク許容度別の資産配分の例です。

リスク許容度株式債券・安定資産考え方
保守的20%80%元本をできるだけ守りたい。取り崩し時期が近い方向け
標準的(推奨)40%60%インフレ対策をしながら安定を重視。多くの60代に適した配分
積極的60%40%10年以上の運用期間が見込める場合や、他資産で生活が安定している場合

ただし、繰り返しお伝えしてきたように、60代の資産運用は「増やす」よりも「守りながら渡す」が本来の目的です。ポートフォリオも「自分が使うお金か、次世代に渡すお金か」によって最適解が変わります。

全部のお金を同じように運用する必要はありません。10年以内に自分が使う生活費は、値下がりリスクを抑えた保守的な運用にする。一方、子や孫に渡す予定のお金は、長期で運用してもらうことを見越して、少し積極的な配分にする。「誰が・いつ使うお金か」を先に仕分けしてから配分を決めるのが、この記事が提案する「設計」のポイントです。

70代でも続けられる:出口戦略の考え方

NISAに年齢上限はありません。ただし、出口の設計も必要です。

いつ、いくら取り崩すかを事前に決めておくことで、認知機能が低下した後でも家族が判断しやすくなります。70代前半までは運用継続、70代後半から毎年一定額を取り崩すという時間軸の設計が一つの考え方です。

売却・取り崩しの目安を家族と共有しておくことが大切です。

60代がNISAで陥りやすい3つのミス

出口戦略まで設計できたら、最後に実際によくある失敗パターンを確認しておきましょう。60代に特有のリスクを事前に知っておくことで、冷静な判断ができるようになります。

パターン① 退職金を一括で全額NISAに入れてしまう

退職金を受け取った直後は「まとまったお金をすぐに動かしたい」という心理が働きやすい時期です。しかしNISAの年間投資枠は最大360万円(成長投資枠240万円+つみたて投資枠120万円)に制限されており、一度に全額は投入できないケースがあります。加えて、投資直後に相場が下落した場合、精神的な負担から売却してしまうケースも多く見られます。退職金は生活費・緊急予備費・医療介護費用の見込み額を先に確保してから、余剰分を一度に全額投入するのではなく、2〜3年かけて段階的に投入するという慎重さが求められます。

パターン② 下落時に焦って売却し、非課税枠を無駄にする

NISAで売却すると、翌年以降に売却した商品の簿価(取得金額)分の非課税枠が復活しますが、売却した年は枠は戻りません。さらに、売却で損失を確定させた後に市場が回復しても、その上昇分の恩恵を受けられなくなります。「下落したら売る」という行動パターンは、非課税のメリットを自ら手放すことになります。

パターン③ 「いつ取り崩すか」を決めずに始める

いつ・いくら取り崩すかを決めないまま運用を続けると、認知機能が低下した後に家族が判断できなくなるリスクがあります。「70代後半から年間○○万円を取り崩す」という目安を、始める段階で家族と共有しておくことが、60代の運用では特に重要です。これは次章の「渡す設計」ともつながる視点です。

NISAの別の使い方:高齢者×贈与 × 若年層×NISA で資産を活用する考え方

ここで重要になるのが、「何のために運用するか」という視点です。
高齢者が無理にNISAで運用するのではなく、資産を次の世代へ橋渡しする役割に回るという選択肢があります。

令和6年度の税制改正では、相続時精算課税に年間110万円の基礎控除が設けられました。
制度としてはまだ不十分ですが、国が「資産の世代間移転」を後押ししようとしている流れは明確です。

高齢者は贈与で資産を移し、若年層がNISAで長期運用を行う。

あるいは親の代から二代・三代見据えて資産&投資ノウハウごと引き継いでいく。
この分業は、NISA制度を世代を超えて有効活用し、資産を増やして相続するという新しい相続対策の流れとつながっているのではないかと私は考えております。

未成年NISA構想が示す課題

ところで話は変わりますが、令和8年度税制改正大綱では、未成年向けNISA(年間60万円・生涯上限600万円)が検討されていますね。
大学資金の事前準備という観点では、合理的な制度にも見えます。

令和7年12月26日に閣議決定がされた、財務省「令和8年度税制改正の大綱」です。

しかし、18歳で名義人が子ども本人になるという点には注意が必要です。
親の意図通りに資金が使われる保証はありません。
制度の問題というより、家族内の合意形成の問題と言えるでしょう。「誰のためのお金か」を先に決める重要性が、ここにも表れます。

NISA以外の「資産の増やし方」も視野に

これからの相続対策は「節税ありき」より、“増やす・守る・渡す”を分ける設計が重要になります。
今後、国は不動産を使った過度な相続税圧縮について抑制方向に舵を切ると見られ、「節税だけ」を目的にした対策は通用しにくくなる可能性があります。

だからこそ、

  • どう増やすか(NISA、投資信託、分散投資)
  • どう守るか(生活費、医療・介護、リスク許容の整理)
  • どう渡すか(贈与、相続、家族会議、情報の見える化)

この3つを切り分けて考える視点が、60歳からの資産運用では特に重要になります。

渡す設計:相続・贈与とNISAの組み合わせ

「NISAで資産を増やしながら相続対策もできる」と考える方も多いのですが、実はNISAが相続対策として担える役割は限定的です。いつ・誰に・何のために渡すかという軸を先に決めた上で、NISAや贈与・保険のそれぞれの強みを比較してみましょう。

NISAは相続対策の一手段に過ぎない

相続対策を考え始めた方にとって、NISAの非課税運用益よりも相続税の圧縮設計のほうが金額インパクトが大きいケースが多くあります。渡す手段を比較します。

手段年間の非課税枠特徴
暦年贈与110万円/人手続き簡単・少額向き
相続時精算課税110万円/年+特別控除2,500万円まとまった贈与に有効
教育資金一括贈与1,500万円/孫使途制限あり(教育目的)
生命保険非課税枠500万円×法定相続人数受取人を指定できる
NISA(本人運用)年360万円(生涯1,800万円)運用益が非課税。
死亡時は相続財産に含まれる。

NISAは生存中の運用益に対して非課税の恩恵がありますが、亡くなった時点で相続財産に含まれます。暦年贈与や生命保険の非課税枠と組み合わせることで、より総合的な設計が可能になります。

参考として、法定相続人が配偶者と子1人(計2人)の場合の相続税の概算を示します。基礎控除は3,000万円+600万円×2人=4,200万円です。なお、金融経済教育推進機構「家計の金融行動に関する世論調査(2024年)」によると、60代・2人以上世帯の金融資産保有額の平均は2,033万円、中央値は650万円です。相続対策が現実的な問題になり始める5,000万円〜1億5,000万円の帯域を例として示します。

総資産基礎控除後の課税対象概算相続税額(2人の場合)
5,000万円約800万円約80〜100万円
8,000万円約3,800万円約475〜500万円
1億5,000万円約1億800万円約1,700〜2,000万円

※基礎控除は国税庁の規定(3,000万円+600万円×法定相続人数)、税額は国税庁「相続税の速算表」をもとに法定相続分で按分して算出した概算です。財産の構成・各種控除・二次相続等によって実際の税額は大きく異なります。必ず専門家に試算を依頼してください。

この金額を見ると、NISAの非課税運用益を積み上げるより、贈与・保険・信託を組み合わせた相続税の圧縮設計のほうが総額として有利になるケースが多いことがわかります。

贈与とNISAを組み合わせた家族設計と知識の相続

親が子・孫に年間110万円ずつ暦年贈与を行い、受け取った子・孫がNISA口座でその資金を長期運用するという設計があります。親の資産が移転しながら、子・孫の口座で非課税運用が積み上がっていく設計です。

さらに私が大切だと考えているのが、なぜこの銘柄に投資したのか、なぜこのタイミングで動いたのかという投資の判断軸も一緒に渡すことです。資産だけでなく、投資ノウハウを相続する。これが知識の相続という考え方です。

よくある質問

60代から積立NISAは遅い?

遅いかどうかは年齢ではなく「目的」と「使う時期」で決まります。

生活費・医療/介護など“近い将来に使う資金”を確保したうえで、余裕資金で「減らしにくい運用+取り崩し計画」をセットにできるなら、60代でも意味があります。

高齢者はNISAをやらない方がいい?

やらない方がいいのは、生活費まで投資に回すケースです。生活費・緊急資金を確保した上で、余裕資金の範囲で分散投資を考えます。

65歳からNISAとつみたてNISA、どっちがいい?

現在の新NISA制度では、つみたて投資枠と成長投資枠の2つがあり、併用できます。65歳からの場合は、つみたて投資枠でインデックス型の投資信託を中心に積み立てつつ、成長投資枠は余裕があれば活用する、という組み合わせが一つの考え方です。ただし、本記事で解説している通り、銘柄やポートフォリオの前に「誰のための資金か」を整理することが先決です。

60代からNISAを始めるデメリットは?

運用期間が短くなるため、長期投資の恩恵(複利効果や価格変動リスクの平準化)を十分に享受しにくい点が挙げられます。ただし、「自分で使い切る」のか「次世代に渡す」のかによって、デメリットの重みは変わります。

2世代、3世代先を見据えた資産形成を

NISAは優れた制度ですが、万能ではありません。大切なのは「制度を使うこと」ではなく、「誰が・どの世代で・何のために使うのか」です。

高齢者は運用よりも設計を。若年層は時間を味方につけた資産形成を。
そして、節税だけに目を向けるのではなく、家族全体の“手残り”を最大化する視点が、これからの相続対策には求められています。

もし今、

  • nisa 高齢者として、自分が始めてよいのか迷っている
  • 60代 積立NISA 遅いのか不安で動けない
    こうした悩みがあるなら、まずは状況を整理するのが最短ルートです。

BFコンサルティングの公式LINEでは、相続のプロに無料でチャット相談ができます。
「うちの家族の場合、NISAはどんな立ち位置?」「老後資金と投資資金の線引きは?」「贈与とNISAの分業は可能?」など、文章がまとまっていなくても大丈夫です。

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この記事を書いた人

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