動産の価格には5つの評価基準がありますが、中でも、相続税の評価額は路線価、遺産分割における評価額は時価が原則です。
そして、この路線価評価額と実勢価格(時価)の間には乖離が生じることがあり注意が必要です。
相続のときの不動産の評価方法について知識がないと、遺産分割や相続税申告の局面において不利益を被ることがあります。
続く本文では、不動産評価の具体的な方法や、その実際的な進め方について詳しく解説します。
\不動産ポートフォリオの全体をサクっと見たい方へ/
ROA分析表
ROA分析は、個別の物件の収益性ではなく、不動産ポートフォリオ全体を俯瞰して評価するときに用いる指標です。
どの物件が収益性が悪いのか、逆にどの物件が良いのか?
を俯瞰して確認することにより不動産ポートフォリオの全体を最適化するための指標となります。
遺産分割における不動産の評価は時価で行います
遺産分割における不動産の評価は時価で行われます。
不動産の評価方法は相続人全員の話し合いによって自由に決めることができるため、時価ではなく相続税評価額や固定資産税評価額などを基準に遺産分割を行うことも可能です。
遺産分割の内容は相続人全員の合意が必要ですが、不動産を特定の相続人が単独で引き継ぐ場合などでは、評価方法を巡って意見が対立することもあるため、注意が必要です。
不動産の価格は一物五価
不動産の価格は5つあります。
- 時価(実勢価格)
- 時価(公示価格)
- 基準地標準価格
- 相続税評価額(相続税路線価)
- 固定資産税評価額
ひとつの不動産に5種類の価格(評価方法)が存在しています。これを「一物五価」や「一物四価」と呼ばれることもあります。
公示価格 | 基準地標準価格 | 固定資産税評価額 | 相続税路線価 | |
---|---|---|---|---|
内容 | 一般の土地取引価格の指標 | 一般の土地取引価格の指標(公示価格の補完) | 固定資産税、不動産取得税、登録免許税などの税金の基礎となる価格 | 相続税や贈与税の計算の基礎となる価格 |
基準日 | 毎年1月1日 | 毎年7月1日 | 1月1日(3年一度評価替え) | 毎年1月1日 |
公開時期 | 3月 | 9月 | 4月 | 7月 |
決定機関 | 国土交通省 | 都道府県 | 市町村 | 国税庁 |
評価の目安 | 100% | 100% | 70% | 80% |
とても複雑ですよね.. 1つずつ解説していきます。
実勢価格
具体的な実勢価格の算定手法として、不動産鑑定評価や不動産売買査定があります。
公示地価・基準地標準価格
公示地価とは、国土交通省が毎年発表する、その年の1月1日時点における全国の標準的な土地の価格を示したものです。この価格は、土地取引や相続税評価、固定資産税評価の参考基準として利用されます。
公示地価は毎年更新される点や、他の評価額の基準となる価格であることから、信頼性が高い点が大きな特徴です。
なお、公示地価は国道交通省のページにて確認可能です。
相続税評価額(相続税路線価)
相続人全員の同意があれば、遺産分割の際に時価ではなく、相続税評価額を基準とすることも可能です。
相続税評価額とは、相続税や贈与税の計算に用いられる評価額で、公示地価のおよそ80%程度の水準で設定されることが一般的です。この評価額は「路線価方式」または「倍率方式」によって算出されます。
なお、路線価方式は毎年7月頃に最新の数値が公表されるため、遺産分割の基準とする際は、最新の価格変動を考慮に入れることをお勧めします。
後ほど、詳しく解説しますが、財産評価基本通達では、財産の価額(土地の評価額)は時価で評価することとされています。
(評価の原則)
(2) 時価の意義
財産評価基本通達 総則第1項
財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(相続、遺贈若しくは贈与により財産を取得した日若しくは相続税法の規定により相続、遺贈若しくは贈与により取得したものとみなされた財産のその取得の日又は地価税法第2条《定義》第4号に規定する課税時期をいう。以下同じ。)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。
しかし、財産評価基本通達の時価と実勢価格には乖離がある場合が多くあります。
固定資産税評価額
固定資産税評価額とは、固定資産税を計算する際に用いられる評価額で、公示地価の約70%程度に設定されることが一般的です。
建物を相続した場合、相続税の計算には相続税評価額ではなく固定資産税評価額が使用されます。
そのため、相続した不動産の中で建物が占める割合が大きい場合は、固定資産税評価額を基準にするのも一つの方法です。
しかし、固定資産税評価額は3年に一度しか見直されません。
そのため、相続が発生したタイミングによっては、過去1~2年の価格変動や不動産市場の実態を遺産分割に反映させることが難しい場合もあります。
不動産鑑定評価額
相続した不動産の正確な評価額を知りたい場合、不動産鑑定士に依頼するのが一つの方法です。
不動産鑑定士は、不動産の時価(実勢価格)とは異なり、売主や買主の特殊な事情を考慮せずに、客観的で正確な評価額を算出してくれます。
鑑定方法については、「不動産の鑑定評価に関する法律」に定められております。
ただし、不動産鑑定士への依頼には数十万円程度の費用がかかり、評価結果が出るまでにおよそ2週間を要します。
また、依頼後に「一部の相続人が評価額に納得しない」といったトラブルを防ぐためにも、不動産鑑定士に依頼する際は、事前に相続人全員でその評価額を遺産分割に利用することに合意しておくことが望ましいでしょう。
路線価評価額と実勢価格の乖離
財産評価基本通達では、財産の価額(土地の評価額)は時価で評価することとされています。
財産評価基本通達の定めによって評価した額を時価とすると規定していますが、実際には財産評価基本通達の時価と実勢価格には乖離がある場合が多くあります。
実勢価格は、その時々に市場で成立している市場価格のことで、市場価格が得られない場合には、合理的に算出された価格のことを指します。
個別性の高い不動産については、市場価格というものが成立しないため実勢価格の明確な定義はありません。
都心の賃貸マンションなどであれば、評価額が時価の半分以下ということもしばしばあります。
時価2億円の不動産の評価額が1億円ということです。
逆に時価が評価額を下回る不動産もあります。
一方で、上表のとおり、相続税路線価は実勢価格の 80%程度に設定されています。
よって、一般的には財産評価基本通達に従って評価を行った土地の価額は、実勢価格より低くなります。
ところが、再建築不可の土地(無道路地)に代表されるような特殊な個別要件をもつ土地では、実勢価格が路線価評価額より低くなるケースもあります。このような場合には費用対効果を考慮のうえ、鑑定評価などの別段の方法による評価も検討すべきです。
財産評価基本通達に従って算出した評価額が実勢価格と比べて高いのか、それとも安いのか。
客観的にその評価額をみて考えてみてください。その土地の相場は実際に売買に携わっている不動産会社に確認するのがよいでしょう。算出した評価額の信頼性を担保するうえでも、実勢価格(相場感)を知っておくことは非常に重要なことなのです。
【注意】相続税と遺産分割では考え方が異なります
相続税の計算では、 土地については「相続税評価額(相続税路線価)」を用いるため、遺産分割における不動産の評価方法についても、路線価を基準にしなければいけない。と多くの方が勘違いされているように思えます。
上記でも解説している通り、財産評価基本通達の時価(相続税路線価)と実勢価格には乖離がある場合が多くあり、どちらを用いるかは相続人全員で話し合う必要があります。
不動産の評価方法はどのように決定されるか?
不動産の評価方法はどのように決定されているか大きく3つに分けて解説していきます。
遺産分割協議の注意点も解説しており、争続と呼ばれることが起こらないようにしっかりと抑えておきましょう。
遺産分割協議で相続人同士で話し合う
遺産分割協議における話し合いで、相続人全員と不動産の評価方法や分割条件等を話し合って決定します。
遺産分割協議における不動産の価額は、時価が原則です。よって、路線価評価の価額をもとに遺産分割を行うと、実勢価格で見直した場合にアンバランスが生じることがあります。
実勢価格と路線価評価額の違いが理解されたうえで相続人全員の合意のもとに分割されるのであれば問題ありませんが、時価の根拠をどう取るかによって合意形成が難しくなる場合があります。
この問題は、換価分割や共有持分での現物分割の場合はそれほど影響はありませんが、代償分割や個別財産ごとに分ける現物分割(一方が不動産で他方が現金など)の場合など、さらには遺留分減殺請求の際に注意が必要になります。
時価の根拠については、財産評価基本通達に基づく評価額や公示価格などによるほか、不動産会社が作成する査定書なども有効な手段となります。最も信頼性が高いのは、不動産鑑定士による鑑定評価ですが、数十万円の費用がかかりますので、その他の方法で合意形成ができなかった場合の最終手段として活用しましょう。
遺産分割協議は、相続人同士の合意形成さえできれば、時価の指標はどれを使ってもよいのですが、利害関係が出やすく、それぞれの主張で協議がまとまらないことも多いため、慎重な対応が求められます。
話し合いで合意に至る場合には、その内容を遺産分割協議書に盛り込んでおきましょう。
法務省民事局が遺産分割協議書の例を作成していますので、参考にしてみてください。
合意できない場合は遺産分割調停・審判へ移行
遺産分割協議で不動産の評価方法に関する意見がまとまらない場合は、家庭裁判所で遺産分割調停を行い、解決を目指すことになります。
遺産分割調停では、調停委員が家庭裁判所で相続人それぞれの主張を公平に聞き取り、意見を調整します。その過程で裁判官が調停案を提示し、各相続人に提案されます。
不動産の評価方法については、まず相続人全員の意見をもとに合意形成を試みますが、合意が得られない場合は、不動産鑑定士による正式な鑑定が実施されることもあります。
この場合の評価方法では、時価(実勢価格)が使用されます。
最終的に全員が調停案に同意すれば、遺産分割調停が成立します。
しかし、調停でも意見が一致せず紛争が解決しない場合は調停が不成立となり、その場合は裁判官が「審判」という形で具体的な解決策を決定することになります。
相続税申告において不動産の評価方法は相続税評価額による
相続税申告において不動産の評価方法は、原則として相続税評価額を使用します。
求め方や詳しい内容については、下記の記事をご覧ください。
資産価値と収益性を知り全体を俯瞰してみよう(ROA分析)
相続手続きでは、名義変更や相続税申告などが粛々と行われ、場合によっては二次相続対策でどう分割するかなどの議論がなされることはよくあります。
しかし、現状の不動産の収益性がどうなのかという議論はほとんど行われません。
差し当たって納税資金が必要であれば売りやすい物件から売る、そして不良資産が残る、そんな負のスパイラルを何の疑問もなく続けている相続人を少なからず見かけるのです。
「不動産は持っているだけで資産」という概念は、バブル崩壊とともに消えました。いまや不動産はいかに収益を上げられるかが重要で、収益の上がらない不動産は余分に持つべきではありません。
相続税評価額が高く収益性は低い土地であればなおさら、ということになります。複数の不動産を所有する地主と呼ばれる方は、特に不動産事業の経営者としての視点で分析し、地主業を時代の流れに応じて適切に経営する必要があります。
投資分析の指標として、代表的なものに ROA(Return On Assets)があります。ROA は「総資産利益率」のことで、次の計算式で求められます。
「純利益」とは、必要経費や支払うべき税金などをすべて差し引いた可処分所得。
「総資産」とは、土地価格と建物価格の合計額です。
ROA は(不動産)ポートフォリオが効率よく利益を上げられているかを測る指標ですが、投資する物件だけでなく、相続した土地や建物がどれくらいの効率で利益を上げているのかを把握する手段としても有効です。
投資効率がよいとされるのは、ROA が 5%以上です。不動産を所有し何も対策をしていない場合は、2 ~ 3%程度でとどまっていることも多く見られますが、目標として 7%以上は目指したいところです。
現状の総資産が時価ベースと相続税評価額ベースでそれぞれいくらなのか、収益がどのくらいあるのか、ROA が何%なのか数値で把握したうえで、次の一手を検討しましょう。
資産組み換えの基本な考え方
資産の組替えなどで売却を考える場合には、実勢価格と相続税評価額の乖離が少ない物件、または相続税評価額が時価より高い物件、いわゆる含み損のある物件を優先的に選びます。
物納する場合にも同様の考え方によります。
また、購入するときには、逆に実勢価格が相続税路線価より高い物件、いわゆる含み益のある物件が望ましいといえます。
節税効果のほかに収益性や資産性、流通性なども総合的に検討することが必要です。
なかでも特に重要なのは、収益性と流通性(出口戦略)です。将来の保険のためと考え、現在の収益がマイナスになるような物件の購入はやめましょう。
不動産は経年劣化しますので、保有期間中は相応の修繕費がかかります。また、売却時には経年劣化による時価の低下も考えられます。将来的にプラスになる保証はどこにもありません。
相続を機に資産を見直しませんか
- 収益性の低い不動産がある
- 利用価値の低い不動産がある
- 築古アパートをどうするか
- 実家をどうするか
など、相続を機に資産を整理して、利用しやすい形にして、次世代に承継したいですね。
そのためには、不動産の資産性、収益性、評価を網羅的に把握し、比較検討する必要があります。
個別の不動産も大事ですが、全体を見て組換をすることによって、全体の資産バランスを整えましょう。
\不動産ポートフォリオの全体をサクっと見たい方へ/
ROA分析表
ROA分析は、個別の物件の収益性ではなく、不動産ポートフォリオ全体を俯瞰して評価するときに用いる指標です。
どの物件が収益性が悪いのか、逆にどの物件が良いのか?
を俯瞰して確認することにより不動産ポートフォリオの全体を最適化するための指標となります。